研究概要 |
本研究課題では火事後に植生がどのように遷移するかということを明らかにすることが目的のひとつになっている.日本では古い火事跡の研究は少なく,火事跡の植生遷移はほとんどわかっていない.そこで,火事後に放置され,数十年が経過した焼失地として北海道富良野市と岩手県久慈市の火事跡を重点調査地に据え,遷移系列を明らかにした. 富良野の火事跡は焼失から87年が経過し,現在は落葉広葉樹林の景観になっている.現在の植生は,焼失直後から優占種だったウダイカンバや,ミズナラ,シラカンバ,イタヤカエデ,ハウチワカエデなどの落葉広葉樹が主体で,樹木層の一部には針葉樹のトドマツが含まれている.林床にはトドマツのほかにアカエゾマツも出現しており,数10年後には北海道本来の植生(原植生)である針広混交林に近づいて行くことが予想された.一方,焼失から20年後と40年後の調査で優占していたバッコヤナギやヤマナラシなどは,現在は見られなくなっており,これらのいわゆるパイオニア種は遷移が進む過程で消失していったものと考えられた. 岩手県久慈市の火事跡は薪炭林(いわゆる里山)が1983年の東北大火の時に焼失した場所で,約20年が経過している.現在の植生は樹木層にミズナラ,コナラ,クリ,ハクウンボク,ウリハダカエデ,カスミザクラなどの落葉広葉樹が多く,これらは焼失前の森林群落でも共通に見られた.アカマツ,ウラジロノキなどのように火事跡にしか出現しない種がある一方で,ヤマモミジ,ヤマウルシなどのように対照の非焼失地にしか出現しない種もあった.低木や草本植物では,火事直後にたくさん出現していたツクシハギやタラノキなどが,20年を経過してほとんど林床から姿を消していた. 本研究により,山火事で焼失してからある程度長い時間が経過した植物群落の構造が明らかになり,また,今後に植生遷移の進む方向性を示すことができた.
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