研究概要 |
本助成課題において,申請者らは分子認識過程を容易な観測手段で追跡できるホスト分子(信号変換機能を有するホスト分子)の開発を行い,かつ,機能性ホスト分子の集合体を効率よく界面上に固定化する手法(2次元インプリント法)の検討を行った.まず,信号変換機能を有する機能性ホスト分子の開発については光学、活性かつ分光活性な分子や,電子欠損型分子,あるいは電子過剰型分子を導入した種々のシクロデキストリン誘導体を合成し,その分子認識機能と分光的手法による信号変換機能を精査した.その結果,特に電子過剰系であるピレン残基を導入した新規ホスト分子が,電子欠損型のビピリジニウム誘導体や,有機ハロゲン化合物に対して優れた選択性と信号変換機能を有していることを見いだした.これらのゲスト分子は環境汚染物質や生体毒性を示す化合物であり,これらの簡便な検出手法としての応用が期待できる. また,シクロデキストリンと,それとは異なる分子認識能力を持つクラウンエーテルやアンモニウム基からなる複合ホスト分子も合成し,その分子認識能力について精査した.その結果,水溶液中であってもシクロデキストリンとの組み合わせによりクラウンエーテルにアンモニウム残基の識別や,イオン対形成によるリン酸化ゲスト分子の識別が実現できた. また,ホスト機能を持つ薄膜として,高分子電解質に着目し,光や着目するゲスト分子以外による分子認識制御に関する基礎的な知見も得た.一方,機能性ホストを電極界面に固定化することで,分子の荷電状態を識別可能な単分子レベルの薄膜の作製を実現した.これらの知見を基に,異なる分子認識能力を示す種々のホスト分子を鋳型分子の共存下に電極界面上に固定化し,ゲスト選択性に優れた薄膜を作製する試みを行った.しかしながら,分子認識能力に優れた薄膜作製の条件を見いだすことは本助成期間中には実現できなかった.
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