研究概要 |
イトマキヒトデの胚発生において,細胞分化の開始と呼応して中期胞胚期でヒストンの架橋二量体が初めて出現する。ヒストンの架橋二量化によって遺伝子発現が制御され,胚細胞の分化が進行すると考えられる。この仮説を実証するためのツールとして,ヒストンの架橋二量化の選択的阻害剤の開発が切望されていた。本研究では,イトマキヒトデの胚発生を初期原腸胚の段階で選択的に停止させる活性及びヒストン二量体の生成を阻害する活性を指標として,500株の放線菌の培養液から生理活性物質を探索した。その結果,2種の未同定放線菌から2種の新規Piericidine類及び2種の新規アセチルアミド類を単離構造決定した。さらに,Micromonospora属の放線菌のブタノール抽出物中から選択的で非常に強い阻害活性を示す3種の新規生理活性物質を見出し,Micromonospolides A, B, Cと命名した。一次元および二次元NMRスペクトルデータ等からバフィロマイシン型の16員環ラクトンを持った新規マクロライド類と構造決定した。絶対配置は,改良Mosher法および化学変換によって決定した。これら新規マクロライド類はいずれも,イトマキヒトデの胚発生を初期原腸胚の段階で停止させる活性を示した。イトマキヒトデ胚では中期胞胚期にヒストンが架橋二量化することが見出されている。Micromonospolide A (0.1μg/mL)の存在下で発生停止したイトマキヒトデ胚について,ヒストン二量体の有無を調べた結果,ヒストン二量体は生起していなかった。これらのことから,Micromonospolide Aは,イトマキヒトデ胚の中期胞胚期でヒストン二量体の形成を妨げることによって,胚発生を停止させたものと考えられた。また,微量成分としてMonosporinと命名したMicromonospolide A関連化合物を単離し,Inositol, Glucosamine, Cysteineから構成される部分構造を有することを明らかにした。
|