研究課題
基盤研究(C)
糖脂質や糖蛋白質などのいわゆる複合糖質の糖鎖が、細胞表層で認識や接着といった極めて重要な現象と密接に関わっていることが、明らかにされている。こうした科学の進歩が「糖鎖工学」や「糖鎖生物学」といった新たな学問領域を造り出し、糖鎖を分子レベルで議論できる段階に至った。しかし、依然としてその標品である糖鎖を自由に合成する術を人類は手にしてはいない。そこで本研究では糖鎖の迅速大量合成を目指し、固相合成とFluorous Synthesisを組み合わせ、それぞれの特徴を生かした「多相系合成システム」の開発を計った。その結果、高度にフッ素化された保護基(シャトルマーカー)の設計と合成に成功した。これらはいずれもアシル型保護基で、糖水酸基に導入し、フルオラス糖鎖合成に応用できた。実際に4〜5糖レベルの合成に次々と成功し、反応性が低い糖鎖合成を如何に革新させるかという命題に一つの解答を出すことができた。たとえばペプチド、核酸など他の生体分子の合成には固相合成が画期的な進展をもたらしたが、糖鎖合成にはその反応性が低いこと、反応のモニターが困難であることなどが障壁となり、必ずしも満足できる段階に至っていない。一方、本研究で開発したフルオラス糖鎖合成は、液相反応であるが故に高い反応性を保持し、反応のモニターは容易にできるなど、将に革新的合成法である。自動合成装置の開発にも繋がる技術となった。さらに、開発に成功したフルオラス保護基を基盤にフルオラスペプチド合成にも新たな道を開くことに成功し、波及効果の大きな研究成果となった。
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