研究概要 |
1.アスパラギン酸アミノ基転移酵素(AAT)の触媒反応過程で重要な意義を有している,基質結合に伴う基質から補酵素-Lys258シッフ塩基へのプロトンの移動の詳細な機構とその構造論的基盤を三次元自由エネルギー解析により明らかにした。基質結合に伴う,活性部位の蓋の構築を乱すV39F変異を導入した酵素の構造解析・速度論解析により,基質結合に伴って大小ドメインが接近するとGIy38主鎖のカルボニル基がシッフ塩基に接近するために,脱プロトン化状態にあるシッフ塩基と静電的な反発を起こすことを示した。この歪みはミハエリス複合体の不安定化を起こし,それによってk_<cat>を増大していることが本質的な意義であることが判明した。したがって,従来から言われてきた「基質結合に伴うシッフ塩基のpK_aの上昇」は「ミハエリス複合体の不安定化」の結果として起こった付随的現象であることが示された。 2.さらに,いままでほとんど解明されていなかったC5基質とAATの反応を構造論的・速度論的に解析した結果,C4基質の場合とは異なり,AATとC5基質のミハエリス複合体は開いたコンフォメーションを取り,それに結合したC5基質は伸びたコンフォメーションを取っていることを示した。更に閉じたコンフォメーションに近づけるV39L変異によってk_<cat>は変わらずにK_mが上昇することは,プロトン数の座標軸の代わりにコンフォメーションの座標軸を用いる三次元自由エネルギー解析により評価を行い,C5基質のミハエリス複合体の開いた構造を不安定化することでAATがK_mを犠牲にしてC5基質に対するk_<cat>値を増大している機構を有することを示した。 以上のようにして,AATにおけるプロトン移動過程を解明し,その駆動力の構造論的基盤を明らかにした。この過程で三次元自由エネルギー解析が有効なものであり,三番目の座標軸を適当に選ぶことによって様々な酵素反応の解析に応用できることを示した。
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