研究概要 |
小脳運動学習の一つである瞬目反射の古典的条件付けを用いて、小脳皮質の可塑性と海馬の役割について検討した。 小脳皮質の長期抑圧(LTD)に障害をもつグルタミン酸受容体サブタイプGluR δ 2欠損マウスは、無条件刺激(US)が条件刺激(CS)に遅れて始まって同時に終わる課題(遅延課題)では学習が障害されるが、USがCS終了直後に始まる課題(トレース0-ms課題)では学習が成立する。このトレース0-ms課題における海馬の関わりを明らかにするために,海馬を破壊して学習に及ぼす効果を調べた。野生型マウスでは海馬破壊群はコントロール群と同様に学習したが、GlnR δ 2欠損マウスの海馬破壊群はコントロール群に比べ、学習が顕著に障害されていた。この結果は、小脳皮質LTDに依存しない学習メカニズムには海馬が重要な役割を果たしていることを示している。現在、GluR δ 2欠損マウスの海馬に慢性電極(ワイヤー電極)を埋め込み、学習中の海馬神経活動を解析中であるが、遅延課題とトレース課題の間で顕著な差は検出できていなく、今後の検討課題である。 また、瞬目反射条件付けにおける海馬の役割を検討するために、ムスカリン性アセチルコリン受容体のサブタイプを欠損したマウスの行動解析を行った。従来、ムスカリン拮抗薬であるスコポラミンの投与により、海馬依存的にこの学習が顕著に障害を受けることが知られている。M1, M2, M3, M5それぞれの欠損マウスを用いて、遅延課題、トレース課題(500ms)を検討したところ、M3欠損マウスのトレース課題において、顕著な学習障害が認められた。このことは、海馬依存性の高いトレース課題は、ムスカリン性アセチルコリン受容体の中で、M3サブタイプが重要な役割を果たすことを示唆している。
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