研究課題
基盤研究(C)
P450の触媒過程で、活性中心に酸素原子が過渡的に生成され、これがその強い反応性のため基質である有機物質を水酸化する。酸素原子は酸素分子のO-O結合が不均等開裂して生じる(これを酸素活性化と呼ぶ)。この開裂反応には2当量の水素イオンが必須であるので、水素イオンの供給経路と供給機構は、酸素活性化機構の理解に重要である。しかし、その経路はまだ議論中でよく理解されていない。カンファー水酸化反応を触媒するP450camにおいて、内部の活性部位から分子表面近くに延びた水素結合のネットワークを我々は提唱している。今回、そのネットワークに酵素外部から水素イオンが供給される仕組みを研究した。上記ネットワークに近接する分子表面アスパラギン酸(D)残基に注目し、この残基を水素イオンと解離会合ができないアスパラギン(N)、ロイシン(L)、そしてバリンに変異させた。変異が一原子酸素添加反応、酵素の構造、そして水素イオン供給反応の及ぼす効果をX線結晶構造解析などの方法を用いて検討した。その結果、DをNに置換すると、水素イオンの供給が律速する酸素化型酵素の崩壊反応速度が激減するため、分子表面Dを介して水素イオンが内部のネットワークに供給されることが示唆された。しかし、Lでは、酸素化型酵素の崩壊反応速度の低下は少なく矛盾した。変異酵素の構造を検討すると、このL残基側鎖の温度因子が大きく、したがって、側鎖は大きく揺らいでいる。そのため水分子が直接内部のネットワークに水素イオンを供給する可能性が分子表面解析から示唆された。したがってP450の場合、表面の特定アミノ酸残基を介したP450camで認められる水素イオンの取り込み機構と直接水分子が運ぶ少なくとも二つの機構が存在することが、本研究から提唱できる。また酸素と可逆的に結合するミオグロビンは、過酸化水素と反応させるとO-O結合の切断を起こし、生じた酸素原子が有機化合物の酸素添加反応を起こす。P450による一原子酸素添加反応の格好のモデルとなる。今回このミオグロビンを用いてペルオキシ型反応中間体を捕らえることに成功し、O-O結合の切断反応に及ぼすアミノ酸残基の役割を実証することに成功した。
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