研究概要 |
平成14年度は、この研究にとって実りの年であり、新たなスタートをした年でもあった。今年度中、2つの国際学会(Molecular Evolution, Jun.2002,Naples ; International conference on AIDS, Dec. 2002,Washington)と、3つの国内学会(第3回CBI学会,9月,東京;ウイルス学会,10月,札幌;分子生物学会,12月,横浜)で発表して、ウイルス専門の学者を始め、分子進化と分子計算などいろんな分野の専門者たちの意見を仰ぐことができた。そして、今年度の後半、分子進化やゲノム解析などの分野で影響力が大きい国際誌GENEに掲載が受諾された。 一方、平成13年度の日本ウイルス学会での発表をきっかけで、この研究で開発した方法は国立感染研エイズセンターで集めたHIV-1の連続サンプルに適用することになった。大量なデータ解析を行った中、いままでの最尤法に基づいた逐次リンクアルゴリズムは尤度の計算量が膨大であり、また変異種の増加により指数的に可能な系統関係が増加するという困難があることが分かった。これらの困難を克服するため、今年度は我々が近隣結合法を利用した遺伝距離準拠型逐次リンクアルゴリズムを開発することに取り込んだ。そして、この新しい計算アルゴリズムを使って抗HIV治療を受けているエイズ患者から継時的に採集したHIV-1のgag及びpol遺伝子のデータについて解析を行い、興味深い結果が得られた。すなわち、我々の方法より、HIVが薬剤の攻撃を受けながら患者の体内でどのように進化していたのかを縦断的な系統樹(longitudinal phylogenetic tree)で示すことができた。今後、ニュージーランドの研究グループが開発したsUPGMA(serial sampled UPGMA)法の長所を取り入れて、我々の方法をより実用性と信頼性の高いウイルス進化解析法に発展させる予定である。
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