研究概要 |
餌に出会ったラットは、出会った餌をその場で食べる場合と、その場で食べずに上下の歯ではさんで巣穴へ運搬する場合とがある。こうした餌への対処行動は餌の大きさにより激変し、餌が小さいとその場で食べ、大きいと巣穴へ運搬することが知られている。一般に、小動物であるラットは外敵に狙われやすく、生命維持のための採餌行動中に、自らが他者の餌食になる捕食危険にさらされていることによりこの対処行動選択が説明される。すなわち、採餌者は採餌量の最大化と自分が捕食される危険の最小化という二つの欲求をトレードオフすると考えられる。 採餌環境が非常に危険と認知される場合、たとえばネコの匂いをつけた布がおかれた環境では、ラットは巣穴から出ない。すなわち、対処行動の選択ではなく採餌を開始するか否かの選択がなされる。危険の程度によりラットが異なる防御行動を採用することは、Fanselow & Lester(1988)の捕食危険連続体で説明されている。 本研究では、採餌そのものを開始させないほど厳しい条件ではなく、餌への対処行動選択自体に影響を及ぼす程度の危険を操作し、その効果を検討した。環境の危険度として採餌環境である走路で側壁の有無の効果を検討した。高架式走路で側壁がある場合とない場合との餌への対処行動を比較すると、側壁がない場合に餌運搬行動の選択率が上昇した(中津山・小貫・牧野,2002)。さらに、側壁の有無により変化する照度をコントロールし、照度変化のない条件での側壁の効果を再度検討したところ、そこでも側壁がない場合に運搬行動の選択率が上昇した(中津山・小貫・牧野,2003)。内的要因として、ラットの系統差を検討した結果、THE(Tsukuba High Emotional strain)、TLE(Tsukuba Low Emotional strain)、F344(Fischer344/Ducrj)、LE(Long-Evans)、WI(Wistar Imamichi)ではTHEとLEで運搬行動の選択率が高いことがわかった。これらの系統は大きな音などの驚愕刺激に敏感に反応する系統に一致する(Kitaoka,1991)。
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