研究概要 |
「スズメは血小板の造成にビタミンKを利用している.アヒルも血小板の造成にビタミンKを利用している.とすれば,全ての鳥類が血小板の造成にビタミンKを利用しているだろう」という推論のように,推論の前提と結論が全て「あるカテゴリCは属性Pを持っている」という形を取る帰納推論をカテゴリに基づく帰納推論と呼ぶ.この形の推論では,「スズメ」や「鳥類」といったカテゴリが中心的な役割を果たしているからである.つまり、カテゴリに基づく帰納推論とは,前提に置かれたカテゴリの特徴を,それらを包含する上位カテゴリや,前提カテゴリと同じ基礎レベルのカテゴリへと敷衍する推論である.我々は直接経験によってのみではなく,推論によっても知識を拡張するが,カテゴリに基づく帰納推論は,そのような知識を拡張する推論として重要なものの一つである.そのため,カテゴリに基づく帰納推論は,日常生活においても科学的研究の世界においても,多く見られる. 本研究は,カテゴリに基づく帰納推論をはじめとする従来の推論研究を概観した上で,その認知過程を明らかにすることを目的として行われた. レビュー研究では,カテゴリに基づく帰納推論を含む近年の推論研究の動向と今後の課題について検討した.推論過程そのものを明らかにしようとする推論プロセス研究と,人間がより効率的で正確な推論をできるような支援について研究を行う推論支援研究に分けることで,全体的な動向を詳細に検討した.また,推論の持つダイナミックな性質を強調することで,新たな研究の方向性について論じた. 実験的研究では,カテゴリに基づく帰納推論の確証度判断における概念構造の役割について検討した.概念構造を操作するに当たり,a.定義的特徴の有無,b.カテゴリラベルの有無,c.カテゴリの階層,の3つの要因に着目した.3つの実験の結果,カテゴリの階層が確証度判断に影響することが示され,カテゴリに基づく帰納推論の持つダイナミックな性質が明らかになった.
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