研究概要 |
本研究では脳磁場(Magnetoencephalography, MEG)を指標にして脳内に存在する言語音の神経表象を検討した本研究では生理学研究所およびUniversity of California, San Franciscoに設置された37チャンネルの脳磁場計測装置を用いて、合成音声および自然音声に対する誘発脳磁場を測定した。被験者は日本語話者および米国語話者であった。 本研究では脳磁場成分のなかでも特に、ミスマッチフィールド(MMF)を指標とした。MMFは1秒前後の短い間隔で繰り返し提示される同一の音(標準刺激)の中に、それとは異なる音響的特性を持つ逸脱刺激がまれに挿入された場合に、逸脱刺激に対して特異的に出現する誘発脳磁場成分である。逸脱刺激と標準刺激の間の心理的な距離が大きくなるのに従って、MMFの振幅は増大し、その潜時は短縮することが知られている。これまでの検討から、MMFは被験者の注意を必要としない、自動的な逸脱検出過程を反映した成分であると考えられている。刺激として、(1)日本語には存在しない音素で、日本語話者には聞き分けが困難な/1//r/、(2)米国人には聞き分けが困難な日本語の長音("エレペ"と"エレーペ")、を用いた。その結果、両刺激に対して、日本語話者と米国語話者の聴覚野の活動パタンは異なっていた。すなわち、/la//ra/を刺激として用いた場合、日本語話者では潜時約160msにMMF頂点が認められたが、米国語話者の場合にはこの頂点に加えて潜時約250msにも頂点が認められた。また、長音に対して日本語話者は潜時約150msにMMF頂点が認められたが、米国語話者の場合は、日本語話者よりもMMF頂点潜時が有意に遅く、約250msに頂点が認められた。これらの結果は、話者の母語によって聴覚野の活動は変化すること、を示唆している。
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