研究概要 |
本研究は,身体的には比較的元気な高齢者に精神的健康をもたらす要因の一つとして,高齢者自身が行う「ボランティア活動」を取り上げ,検討を行った.特に,ボランティアの中でも「情報ボランティア」に注目した.「情報ボランティア」とは,作業的に「コンピュータ等の情報機器の操作,情報の伝達方法についての援助」と考え,それに携わる人々の精神的健康の様相を多側面より検討した. 調査対象は,「情報ボランティア」に関わる原則として65歳以上の高齢者であった.手続きとして,「情報ボランティア」の担い手と受け手の双方に,半構造化面接を行い,ボランティア観や精神的健康に関する調査を実施した. その結果,情報ボランティアの担い手も受け手もともに,精神的に不健康な方向に変化した者はおらず,生活満足度はこうした活動により維持・上昇すると考えられた.特に「情報ボランティア」の担い手は,比較的はっきりした目的をもって活動している場合が多く,目的意識の高さが満足感の高さにつながっていた.さらに「情報ボランティア」の場合,担い手のサポートの効果,および受け手の情報処理技術の到達度が,結果として目に見えやすい事も,双方の満足感を向上させる事に寄与していた. こうした達成的な満足感は,受け手と担い手の双方にとって,活動当初には特に大きな影響を与えていた.しかし,その活動の維持・継続においては,技術的な達成のみならず,活動に伴う人間関係の広がりなどの対人的な満足感が重要である事も示された.同時に受け手にとっては自分自身がボランティアの担い手になることができるという役割の変化も,生活満足度にとって重要な意味を持っていた.つまり受動的にサポートを受ける事だけが精神的健康を向上させるのではなく,自らがサポートをする立場になることも当人の精神的健康に大きな影響を与えている事を示唆するものであった.ただし,パーソナリティに代表される個人差の問題や,活動する場・団体などによる差異も散見されるため,現在より詳細な分析を行っている.
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