研究概要 |
留学生の異文化間接触は勉学を目的とし、自発的で、帰国を前提とした中期的滞在で、受入国の人との関わりが「中程度」であるという特徴をもつ。母国回帰を想定する留学生は、その留学経験を様々な形でキャリア発達に生かすことになる。しかし、留学経験者は母国の標準的キャリア発達と受入国の標準的キャリア発達とは異なるキャリア形成が求められることになる。本研究では、1994〜1997年の間に国立I大学に在籍経験のある者17名(現在、14名が母国帰住)に対し、在籍時の参与観察を含め面接調査等多角的方法を用いて、そのキャリア形成過程について追跡調査を行った。各対象者の事例について、留学前、留学期、留学期終了後を通してのキャリアの連関を分類・整理し、発達段階における留学の位置((1)青年中・後期、(2)青年後期・成人期、(3)成人期)がキャリア形成にとって重要な意味をもってくることを明らかにした。具体的には、(1)においては、発達段階に対応し徐々に専門性を確立するか、まさに探索的に留学期を過ごし、個別的に進路選択を行う。(3)は就業経験のある者が多く、その職業の専門性を高度化し継続する。(1)と(3)の中間期にあたる(2)では、個別的な進路選択が行われ、(1)の探索から収斂と(3)の専門深化を含み、キャリアの転換もみられる。このように発達段階との関係で留学が果たす機能が大きく変わってくるが、異文化適応と母国での再適応を迫られる留学経験者それぞれの発達段階での課題を安定的に遂行していくためには、その格差を埋めていく緩衝機能が求められる。研究代表者は既に留学期における各種緩衝機能の必要性について研究してきた(細越,1997,1999)が、本研究では生涯発達の視点から特に帰国後の再適応時の緩衝機能(留学プログラムの安定性、母国での対人ネットワーク等)の必要性が明らかにされた。
|