研究概要 |
本研究では,祖父母-父母-孫における感情表出性の世代間伝達について検討したものである.まず、家族の感情表出性を測定する質問紙(Family Expressiveness Questionnaire ; Halberstadt,1986)の日本語版(日本語版FEQ)を作成した.これを用い,母親の感情表出性と,幼稚園での自由遊び場面における,幼児の感情表出についての観察データ関連について検討した結果,母親の感情表出性の影響の仕方は子どもの感情表出チャンネル(発話・行動・表情)によって異なっていた.しかし,母親のネガティブな表出性のみが高い場合には,いずれにおいても子どもの感情表出はネガティブなものとなっていた.このことから,ネガティブ表出性だけが高い場合は次世代へとこの傾向が伝達されやすいことが示唆された. また,「家族における感情表出質問紙」を独自に作成し,予備調査とそれに基づく尺度の改良を行った.31の感情について,それぞれ(1)家族の中で感じる程度,(2)家族の中でどの程度表現してきたか,(3)家族の中で表現することを抑えてきた程度,(4)家族同士で表現し合う程度を尋ねる質問紙を作成,大学生に実施した.併せてFamily Assesment Test(FAST)も実施した。家族の感情表出について家族形態(三世代家族・核家族)による違いを検討を行ったところ,核家族では喜びの感情を抑制し,三世代家族では,落胆,苦しみ,罪悪感,敵意,恐れ,憎しみ,嫌悪,軽蔑といったネガティブ感情を抑制し,幸せ,愛情といったポジティブ感情を核家族よりも家族同士で表現していた。一方FASTについて検討したところ,現実の家族における親密性と階層性から判断される家族構造タイプについて,核家族は調和型,非調和型,中間型がほぼ同数見られたが,三世代家族では中間型が多く,調和型,非調和型が少ないという結果が得られた。 以上の結果から,三世代家族はネガティブ感情を抑制し,家族同士でポジティブな感情を表出することによって,極端に良い,もしくは悪い家族関係ではなく,ほどほどに良い家族関係をつくりだしていることが示唆された。
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