平成13年度に実施したフランスのコルシカでの聴き取り調査、および収集した資料から、1960年代は土地の整備(土木)、70年代は農業、80年代は観光と開発を進め、90年代以降地方分権という文脈の中で、コルソウ語(コルシカ語)という地域言語を文化資本とした経済開発をコルシカの行政体が主体的に促進してきたことがわかった。少数話者言語地域ではフランス初めてのバイリンガル教育の小学校が2002年9月に開校され、経済のグローバリゼーションが展開し、政治体の再編が進行する中、地域の主体性、アイデンティティを確立するための言語だけでなく、雇用を生み出し、経済効果を生み出す経済資本としての言語の姿が浮かび上がった。 こうした文化と地域開発の関係をより掘り下げて考察するために、今年度は2002年8月から9月にかけて、コルシカに関する資料収集、および聴き取り調査を現地のフランス人にコーディネートと補助を依頼して実施した。特に、今年度は、「ヨーロッパに対する意識が肯定的になったので、コルシカをアイデンティティの核として言語と自治の権利要求が、政党の支持を超えて、コルシカの人々に広がっているのではないか」という仮設をもって、商店主や学校の教員など、一般の人々への聴き取り調査を遂行した。この調査の報告の一部として、第75回日本社会学会大会(於大阪大学、2002年11月16日テーマセッション:言語社会学の方法論をめぐって)「少数話者言語にみる言語の社会的機能の一考察」を発表し、1960年代からの性急なコルソウ語の権利要求運動がもたらした言語のゆがみと権力構造について「少数話者言語研究の社会学的意味の一考察」(『現代社会学』第4号)、ヨーロッパへの意識と地域言語の権利要求の関係について「地域言語政策と地域主体の変容:フランス・コルシカにおけるコルソウ語の事例」(科学研究費補助金基盤研究(B)(1)「EU地域政策の展開と地域の文化・言語問題の実態」課題番号13572005の報告書)として論文にまとめた。
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