研究概要 |
本年度は,米国東岸諸州の施設・学校年報と教育統計資料の分析を通して,以下のことが明らかになった。 20世紀初頭の米国では,公立学校制度の充実にともない学業不振児や学習遅進児問題が浮上し,公立学校内特殊学級が成立していく。そしてこのことが,コミュニティにおける軽度級「精神薄弱」者の存在を明確なものとし,「精神薄弱」者を隔離処遇下で教育し保護するという従来からの施設の役割を揺るがすことになった、特に,特殊学級から学齢を過ぎた生徒が施設へと回ってくることになり,14歳から16歳の新規入所者の割合が高くなった。この新規入所者は,公立学校に就学後,学年が進んでから「精神薄弱」と診断されるケースであり,比較的知的能力が高く一般就労の可能性も高かったし,施設内の単調な生活では満足できない者たちだった。施設は,能力の低い者の保護と能力の高い者へのリハビリテーション・サービスという2極化した役割を担うこととなり,後者への対応の一環として,施設内の処遇理念と実践を公立学校特殊学級にまで広げるための特殊学級教員訓練プログラムの提供や就学年齢超過後数年間の訓練の提供,コミュニティで就労する施設退所者に対するソーシャル・ワーカーの養成と派遣を積極的に行った。また,通常学級に紛れている「精神薄弱」児を早期に発見すべく「相談所」を公立学校内に開設した。しかし,この施設のセンター的役割は,「精神薄弱」者の地域生活を支えると同時に,彼らの能力発達の限界説や否定的障害観をコミュニティに広げることにもなっていたことが考えられた。 公立学校において軽度級「精神薄弱」児が問題視される状況と過程を十分に再現することができなかった点,特殊学級卒業者のケアについても具体的に論ずることができなかった点,通常教育のシステムとそれを補完する特殊教育や施設システムの関係解明についても不十分であった点が今後の課題である。
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