研究概要 |
前年度に引き続き,今年度もスペイン内戦(1936-1939年)を体験した人々にインタビューを行い,文章におこす作業に入った。彼らの中には,過去の戦いの日々に関する記録を残したいという気持ちと,それを語ることで関係する人々との日常生活における不和を恐れる気持ちとの間で逡巡する人々も多かった。この作業を通じて,自分の支持した陣営の正当性を立証するのに主観的・感情的に事象に触れずにはいられない話し手の述べる内容と,冷静に語ることのできる語り部との話の内容を,どのように歴史資料として使用するのか,などの問題を前に,口述から歴史を書くにあたっての分析方法を再吟味する必要があると考えるに至っている。 これまでは特に,カトリック信徒,なかでも後に聖職者となった人々の記憶の中にある戦争に焦点を当てようとしてきた。塹壕での体験や,戦時下の宗教体験,敵に銃殺されることを覚悟して生きた日々の暮らし,家宅捜査の模様,敵に連行されたまま戻らない家族をどのように探したか,など,齢80を超えようとする彼らの内戦の記憶は時に非常に鮮明で,時に極めてあやふやであり,それらを完全な形で記録しなおすことは不可能である。今年度は,時間関係の経過の正確さにかかわることに注目し,資料を用いてできる限り裏をとるべく努力したが,個人史のミクロな体験を記録することの困難から脱却したとはいえない。また証言者の健康状態は時を経ることに悪化しており,今回も残念ながらインタビューを断念しなければならない人が出た。一方,資料収集に関しては,証言者から提供された雑誌や未刊行資料等に触れる機会に恵まれ一定の成果があったといえる。これらを援用し,今後も研究成果を報告・発表する予定である。
|