研究概要 |
本研究は,生成文法理論の枠組みで,数量詞句の作用域など文の意味決定に参与する統語的・形態的要因や,否定極性表現等の言語形式の認可原則について明らかにすることを目標とする。平成14年4月から9月にかけて,前年度の成果を踏まえ,関連データの考察,分析方法の検討を行い,並行して最新の知見を取り入れるため,関連文献の調査および研究協力者との研究打ち合わせを行い,本研究への重要なフィードバックを得た。さらに,同年10月より,上記の作業を引き続き行う一方,これまでの成果のまとめに入り,データの整理および論文のアウトラインの検討を行った後,英文論文の作成に入った。この英文論文は,現在Linguisticsなどの海外専門誌かEnglish Linguisticsなどの国内専門誌への投稿の準備中である。これに加えて,本研究の成果の一部を,研究協力者の一人と共著の論文として執筆し,すでに発表済みである。 本研究の成果の内容は以下のようにまとめられる。 (1)数量詞句の作用域を決定するために従来提案されていた不可視的移動規則「数量詞上昇規則」と日本語などの言語に見られる可視的移動規則であるスクランブリングとの,移動境界に関する共通点がわかった。 (2)同様に「数量詞上昇規則」とフランス語の遊離数量詞移動の移動境界に関する共通点がわかった。 (3)(1-2)より,数量詞の作用域決定は,日本語のスクランブリングおよびフランス語の遊離数量詞移動を支配する原理と同一の原理によって支配されることになる。 さらに,Fox(2000),Takahashi(2002)等の「数量詞上昇規則」と経済性に関する知見および,河村(2002)等の,スクランブリングと情報構造に関する提案を検討した結果,(4)同一の経済性原理が,不可視的移動にも可視的移動にも関わる。 (5)数量詞上昇規則は,可視的移動の不可視的部門における反映である。 という理論的帰結が得られた。
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