今年度は、著作権と密接に関わる剽窃(盗作)について、談話分析の立場から調査をおこなった。具体的には、学会誌における報告と予稿集の相互テクスト性について考察した。その議論の中で、日本の学術雑誌に見られる。ジャーナリスティック、テクストのあり方に近い報告が欧米の学術雑誌に皆無である理由の一つとして、創造的で独創的かつ自律的な個人という概念に拘束されている西洋のアカデミズムでは他者のテクストとの間にジャーナリスティックな関係をもつことが認められないことを指摘した。近代以来、個人の創造性、独創性、自律性を何よりも重視する西洋のアカデミズムという実践共同体と、そのような伝統をもたない日本のアカデミズムという実践共同体の違いが、ジャーナリスティック、テクストのあり方に近い報告が認められるか否かに関わっており、西洋の特定の実践共同体の判断基準により剽窃とされるテクストであっても、西洋のその他の実践共同体ではもちろん、西洋以外の実践共同体においては必ずしも同様に判断されるとは限らないことを指摘した。基本的には倫理上の問題である剽窃は、法律上の問題である著作権と密接に関わっているため、相互テクスト性における社会文化的背景を考慮に入れることは、今日国際的な議論の的となっている著作権の問題について考えるにあたり欠かせない点も指摘した。 今後も談話分析の立場から引用と著作権に関する研究を継続するつもりであり、現在、東京大学先端科学技術研究センター知的財産権部門の首藤研究員と、ジョージタウン大学教授のスコロンや同名誉教授のシャイの参加を含めて、共同プロジェクトを計画中である。
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