研究概要 |
平成14年度は、『国民之友』創刊から訪米まで(1887〜97)の時期に重点を置いて研究を行った。具体的には、まず明治中期における蘇峰と三人のアメリカ人(Edwin L. Godkin, Charles E. Norton, George Kennan)の交流の実態、次に明治20年代の蘇峰がRalph W. Emersonの著作から受けた影響を考察した。 (1)ハーヴァード大学ホートン図書館所蔵のGodkin文書、Norton文書に収められた蘇峰の英文書簡を考察した。New York Natlon編集長を務めたGodkinは、ジャーナリストを目指す蘇峰にとって自己実現のモデル、憧れと敬意の対象であった。また蘇峰の英文書簡と、財団法人徳富蘇峰記念塩崎財団・徳富蘇峰記念館に所蔵されたNortonの蘇峰宛書簡を対比考察した。蘇峰は訪米時、Nation創刊に携わったNortonのピューリタン的性格に強い感銘を受け、他方Nortonも蘇峰から一種のカルチャー・ショックを受けた。 (2)米議会図書館のKennan文書に収められたKennanの書簡と日記、および蘇峰の英文書簡を考察した。Outlook誌の特派員として来日したKennanに蘇峰は協力を申し出、密接な関係にあった松方正義への紹介を約束し、記事執筆に必要な資料入手の便宜をはかるとともに、Kennanの報道の誤りを正した。(1)、(2)のように、蘇峰は明治中期を通じて具体的な人物、体験を通じて親米感情を深く心に刻んでおり、その心情は日米戦争直前まで消えることがなかった。 (3)財団法人石川文化事業財団・お茶の水図書館成簣堂文庫所蔵の蘇峰手沢本であるEmerson著作集(E ssays, Miscellanies, Letters and Social Aimsなど)を検討した。蘇峰は明治20年代を通じて、Emersonを愛読し、とりわけ"Self-reliance"の一文に多くの書き込みとアンダーラインを残しており、そこに強い感銘を受けたことが明らかである。Emersonは自己を信じることによってより大きな人間に成長し、世界が拡大することを説いたが、蘇峰はこの文章を個人生活だけでなく、国際関係にも適用し、日本人が自己を信頼することによって日本帝国の膨脹が実現するという対外論を展開した。
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