研究概要 |
14年度の研究では、13年度の研究に引き続き、拙著"Regime Shifts and Forecasting Errors in Exchange Rates"(Hitotsubashi Journal of Economics, Vol.42,2001)で用いられた方法に基づいて推定された予測誤差とマクロ経済変数間の関係を統計的に調べた。予測誤差は対象となる2つの通貨に関する相対的な将来の過剰利得状態の期待確率と事後的な過剰利得状態の確率の差として計算される。状態の数は2としたモデルを用い、各状態の分散は一定あるいはARCH型を想定し、四半期および月次の円ドル・レートを用いて推定した。対象期間は1980年1月から2000年6月までである。本研究で取り上げたマクロ経済変数は、日本に関しては景気の先行系列と考えられる12種16系列、一致系列とされる11種13系列、および遅行系列とされる7系列である。また、米国についてはマクロ経済・金融データを中心に四半期・月次データ170系列を調べた。未季節調整データについては、拙著"Multiresolution and Seasonal Adjustment"(Global Business & Economics Review-Anthology 2002)で考察された多重解像度解析を利用し4つの周波数領域に分解し、各系列と推定された予測誤差との関係を調べ、予測誤差は季節性をあらわす周波数よりもより低い周波数部分とより強い関係があることが見出された。つまり、季節性による変動が予測誤差をもたらす可能性は非常に低い。回帰分析および主成分分析等を用いた結果、予測誤差と強い相関関係にある変数は主にマネー・マーケット関係の変数であり、日本の長短金利差や米国の財務省証券3ヶ月もの金利やその残高の変化率などに代表される。各国の金利期間構造の変化や金利変動に関する期待による影響が大きいと推察される。しかし、これらの変数が説明しうる部分は予測誤差全体のせいぜい20%である。GDPや民間投資、消費などの実物経済の変数との強い関係は見出せなかった。今後は金融政策と金利の期間構造あるいは金利変動、取引額の変動との関係を研究する一方、経済政策のマネー・マーケットにおける市場期待への影響を定量的に捉える方法を考察する予定である。
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