研究概要 |
本研究は日本企業の国際競争優位を海外製品開発のイニシャル・ステージにおけるコミュニケーションに注目して検討した。その結果,日本企業のなかで各地で高い業績を上げている企業には,商品企画という問題の解決を担当する人材が顧客や流通業者と接触,観察する,あるいはそこにより近い人材との接触から情報を収集するという基本行動が共通して観察された。それは必要な情報をまさに自分の目で見,耳で聞くという,いわば手触りできるようなかたちで集め,それにもとづいて行動を決めるものである。われわれはこのようなやり方を触知的方法論と呼ぶ。また,その方法論の移転に特有の方法論があることが見いだされた。日本企業が培ってきた方法論を国際的に適用するときには,現地特有の制度や慣習,価値観という壁につきあたる。文書化したり机上で論じても,現地の人材はそれを理解することも体得・実践することもできない。そこで日本人が現地人材をまえに方法論を実践し,それをつうじて後者への移転をはかっていた。われわれは,この移転のための方法論も触知的方法論と呼ぶ。日本人自ら現場に出ていき,移転対象となる現地の人材をまえに方法論を実践する。方法論の目的,意味,具体的な内容を可視化し,現地人材がそれに直に触れて理解,体得できるようにする。そのような意味を込めて触知的方法論とわれわれは名づけた。現実には,子会社において現地人材が市場戦略の管理者に登用される傾向がほかの経営活動よりも強い。一方で,かれらに対する単なる放任への危機意識も表明される。こうした矛盾が触知的方法論をベースに説明される。触知的方法論というコミュニケーションは,日本企業の国際市場戦略における統合と分化のバランスをはかる1つのデバイスとなっていると見ることができる。そして,方法論が触知的であるゆえ欧米企業の模倣は容易ではなく,日本企業の国際競争優位源泉となっていると考察した。
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