研究概要 |
14年度においては,まず,13年度に実施した「税効果会計に係る会計基準』の適用動向に関する実態調査との関連で,会計基準の実施時期の設定に係る要因,および経営者の会計基準適用時期の選択を説明する理論を検討した。 前者に関して,会計基準の完全実施までに複数年の準備期間を設ける点は,企業側の事務負担,さらには実務指針等の整備という点を指摘し得るが,早期適用の容認という点関しては,マクロ会計政策の問題という,更なる研究の領域が指摘される。 また,後者に関して,早期適用という選択が,企業情報の早期提供という観点とともに,基準の適用による効果,特に,利益調整および配当財源の確保という観点からも説明がなされる。 そこで,1998年3月期の連結財務諸表において税効果会計を適用していなかった企業のうち,早期適用を選択した企業(早期適用企業)と早期適用をしなかった企業を対象に,この2つのサンプルを(1)新基準への移行に係る事務作業量,(2)利益水準および前期比の利益率の変化率,(3)配当余力という観点から峻別できるかどうかについて統計的検定を行った。 その結果,(2)について,微妙な水準ではあるが早期適用企業の利益水準が有意に低かったが,前期比の利益率の変化率は有意な差はなかった。また,(3)に関しては,早期適用企業の配当余力が有意に低いという結果が得られた。さらに,繰延税金資産に対する評価性引当金の設定割合についても調査し,早期適用企業のほうが設定割合が低いという結果が得られた。 したがって,早期適用企業は,将来の収益力および基準の適用効果を踏まえた上で,損失処理を積極的に進めた企業と特徴付けられる。しかしながら,上記のどの観点が早期適用という選択のトリガーであるかについては,今後の研究課題である。 これらの成果は日本会計研究学会第61回全国大会にて報告し,また,そこでの指摘等を踏まえてものを一部紀要にて発表している。
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