研究概要 |
以前の研究において,私は,エルゴード的無限不変測度をもち,間欠カオスを生じるような区間上の写像の力学系の測度無限大となるような集合Aに対して,エルゴード理論の基本的な問題である時間平均(Aへの軌道の滞在時間/経過時間)の極限について研究した.そして,その極限の存在のための十分条件およびその極限値に関する一連の結果を得た.また,この時間平均の極限値が定まらずに振動するような条件を得た.本研究では,私の今までの研究を発展させること及び拡張することを目指し,次の2点を目的とした. (1)間欠カオス力学系において,積分が無限大となる関数のエルゴード和についてどのようなエルゴード理論的極限定理が成り立つかを調べること. (2)多次元の間欠カオス力学系に対して,上記の時間平均の極限が存在するか否かを研究すること. (1)については,積分が無限大となる関数のエルゴード和の比が測度収束するための条件及びその極限値に関する結果,積分が無限大となる関数のエルゴード和の比がほとんどすべての初期値に対して0に収束するための十分条件,積分が無限大となる関数のエルゴード和の比の極限が定まらずに振動するための十分条件を得た.この成果は専門誌に掲載されることになった.また,(2)については,多次元写像の不変測度の研究において,優れた研究を行っているP.Gora, A.Boyarskyらから,示唆に富む多次元写像の例を教わった.この例を深く考察することにより,エルゴード理論的な研究を推進する上で有益と思われる多次元の間欠カオス力学系の例をいくつも見いだすことができた.その結果,2次元のある写像族に対して,区間上の写像の力学系に関する結果を拡張できる見通しがついた.現在,その詳細を検討しているところである.
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