鉄よりも重い元素の起源とされるrプロセス元素合成が宇宙のどこで起きるのかは大きな謎とされてきた。非常に古い星でrプロセスによる重元素が存在することが明らかになり、超新星爆発でのrプロセスの理論的研究が急務となっている。このためには超新星の爆発メカニズムを解明すると共に、rプロセス元素合成量を明らかにして、その特徴を最新の天体観測と照らし合わせていく必要がある。 流体力学や核反応ネットワークの計算を組み合わせて、数値シミュレーションを行い、超新星爆発の各イベントにおいて作られるrプロセス元素合成量を定量的に求めて、その特徴を明らかにすることが研究の目的である。親星の質量の違いによる爆発メカニズムの違いに着目し、rプロセス元素合成パターンの特徴を明らかにするため、大質量星の中でも、比較的質量の小さい場合と大きい場合に分けて研究を進めてきた。 昨年度の質量の小さい場合の研究成果に続き、今年度は質量の大きい場合について研究を行った。この場合にはニュートリノ駆動風と呼ばれる質量放出メカニズムの解明が鍵となる。一般相対論的流体力学の計算コードにニュートリノによる加熱・冷却や組成の変化を組み込み、超新星爆発で誕生した中性子星の表面物質の時間発展の数値シミュレーションを行った。この時、重要になるのは中性子星の質量・半径とニュートリノの強度であり、これまでの研究においては中性子星の質量が太陽質量の2倍という値が要求されていて、rプロセスが起こるのは難しいと考えられてきた。本研究ではシミュレーションにより、衝撃波後面のニュートリノ駆動風が行き着く先の圧力(温度)がrプロセスにおいて影響を及ぼすことを初めて発見した。現実的な圧力値の範囲において、通常知られている太陽質量の1.4倍の質量の中性子星でrプロセスが起こることを解明して、ニュートリノ駆動風におけるrプロセスの新しい可能性を開いた。 2年間の研究により、大質量星の質量の違いに起因するrプロセスの違いについて、系統的に解明することができ、超新星爆発イベントとrプロセス元素合成パターンの関係を示すことに成功した。これにより、非常に古い星の重元素のスペクトル観測と連携した宇宙における重元素の進化の解明に大きく寄与した。
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