研究概要 |
超弦理論は統一理論の最有力候補であり、また紫外発散の問題のない無矛盾な現在唯一の量子重力理論である。とは言え、超弦理論は通常ミンコフスキー時空上で定式化されており、曲がった時空での超弦理論は充分に理解されていない。特に、物理的に意味のある理論では、物理的状態に負ノルム状態(ゴースト)があってはならないが(ノー・ゴースト定理)、曲がった時空に対してこの定理を示すのは困難である(Maldacena-Ooguri,2000等)。そこで逆のアプローチとして、ノー・ゴースト定理の可能な限りもっとも一般的な証明を与えた。 曲がった時空は、いくつかの種類に分けることができる;(1)時間方向の計量が平坦で、空間方向も一次元は平坦な場合;(2)時間方向が平坦で、空間方向は完全に曲がった場合;(3)時間方向も空間方向も完全に曲がった場合。ゴーストは時間方向の弦の振動から生じるので、(1)から(3)に進むにしたがって解析は困難である。これまで知られていたノー・ゴースト定理は(1)の場合だけで(Kato-Ogawa,1983等)、(2)や(3)については分かっていなかった。 近年、我々はノー・ゴースト定理を拡張する新しい方法を提案した(Asano-Natsuume,2000)。これは、既存の数学上のテクニック(Frenkel-Garland-Zuckerman,1986)を踏まえたものであるが、これまでこのテクニックは(1)の場合についてのみ応用されていた。我々は、このテクニックが(2)の場合にも応用可能であることを示した。前出の論文では、弦理論としては最も簡単なボゾン弦をあつかったが、今年度はこの証明をより現実的な超弦理論に拡張した。この仕事は、これまで知られていなかった無矛盾な弦理論を見いだしたことにもなる。また、これは超弦理論のBRST量子化を議論したものとしては、数学の論文を除きもっとも完成度の高い仕事でもある。これらの成果は近日中に発表予定である。
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