研究概要 |
本研究では、典型的な低次元強相関電子系である遷移金属酸化物、ハロゲン化ニッケル錯体における非線形光学効果の評価及び、巨大非線形感受率の起源を明らかにすることを目的とし、研究を行ってきた。今年度は、「光による光の制御」に対応する三次非線形感受率χ^<(3)>(-ω;ω,-ω,ω)の測定をZ-scan法及びpump-probe分光法にて行った。これまで低次元強相関系に関して体系的に得られている非線形光学スペクトルは、電場変調分光法および第三高調波発生法によるスペクトルである。これらは非線形感受率の指標を与えるが、究極目標である「光による光の制御」をあらわす非線形感受率そのものではない。今年度の研究では、上記の実験により、低次元強相関電子系における光の制御に相当する光学非線形性を直接、明らかにすることを目的とした。 結果として、一次元銅酸化物、二次元銅酸化物、一次元ハロゲン架橋ニッケル錯体の二光子吸収スペクトルを得た。一次元系は銅酸化物、ハロゲン架橋ニッケル錯体ともに、二次元系より大きな非線形感受率を示した。スペクトル形状は、束縛状態を形成していると考えられる場合は、二光子吸収スペクトルも鋭くなり、励起子状態への振動子強度の集中が二光子吸収スペクトルにもあらわれていることがわかった。一方、束縛励起準位を形成しない(連続状態の)場合は、線形吸収ピークよりも低エネルギー側まで二光子吸収遷移があらわれ幅広いスペクトルになった。その結果、非線形感受率のピーク値は、束縛状態を形成した方が、大きくなることがわかった。束縛状態を形成するためには、隣接サイトへのクーロン相互作用(長距離クーロン相互作用)を大きくすればよい。そうすることにより、二光子励起で動作する非線形光学プロセスをより増強できることが明らかになった。
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