研究概要 |
本研究の目的は、遷移金属酸化物における素励起を調べる手段として、共鳴非弾性X線散乱の理論を構築する事である。この方法は、入射X線を固体内に含まれる元素の吸収端に設定して非弾性X線散乱を行うものである。平成14年度の課題として、遷移金属酸化物の金属絶縁体転移近傍の異常金属相における素励起に着目し、これを対象とした共鳴非弾性X線散乱の理論研究を行った。スピン、軌道秩序のある絶縁体相における理論の構築とスペクトルの計算は平成13年度に実施しており、本年度はこれを拡張すると共に、金属相における素励起の特徴とこれを観測する手段としての共鳴非弾性X線散乱に焦点を当てた。具体的な系としてホールをドープしたペロフスカイト型結晶構造のマンガン酸化物を取り上げ、これを(1)軌道秩序の残る強磁性絶縁体相、(2)軌道液体が実現していると考えられる強磁性金属相の2つにその領域を分けた。前者では昨年度に引き続いてリウヴィル演算子法、複合演算子法とハートリーフォック近似を併用し、後者では軌道秩序が無いことから有限サイトにおけるハミルトニアンの数値厳密対角化法を用いる事でスペクトルの計算を行った。以下に得られた結果を簡単にまとめる。(1)軌道秩序強磁性絶縁体相では、ホールのドープされていない絶縁体相LaMnO_3に比べ、スペクトルの大きな波数依存性が得られた。これは両者で異なる軌道秩序を取るためであり、これは特にc軸方向において顕著であることを見出した。(2)軌道秩序の無い強磁性金属相においては、ホールの導入に伴い低エネルギー領域へのスペクトル強度の移行が見出された。これはこれまで許されていたモットギャップ間の励起に加え、下部ハバードバンド内の励起が可能となったためである。最近SPring-8でLa_<1-x>Sr_xMnO_3(x=0.12,0.2,0.4)において詳細な共鳴非弾性X線散乱の実験が行われた。実験と本研究の結果を比較する事で、上記の2つの特徴が実験データにおいて見られている事が明らかとなっている。
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