研究概要 |
1.高温超伝導体の擬ギャップ領域における輸送現象の理論:高温超伝導体の低ドープ領域では擬ギャップ温度T^*以下で各種物理量が擬ギャップ的振舞いを示し、そのメカニズムの解明は最近の高温超伝導体の研究における中心的課題である。最近Stanford大学のOng達により、高温超伝導体の常伝導相におけるネルンスト係数が詳細に計測され、擬ギャップ領域でネルンスト係数が著しく増大するという、通常の金属では考えられない特異な挙動を示すことが明らかになった。この実験結果から、Ong達は擬ギャップ領域で多数のボルテックス・反ボルテックス対が熱的に励起されていると考え、議論を呼んだ。一方、我々は擬ギャップ領域で強い超伝導揺らぎが発達しているという立場に立ち、フェルミ液体論の立場からネルンスト係数の計算を行った。その結果、カレントに対する多体効果であるバーテックス補正項を考慮することで、T^*以下におけるネルンスト係数及び磁気抵抗の急激な増大が再現されることがわかった。本研究により、高温超伝導における様々な輸送係数(ホール係数、磁気抵抗、熱起電力及びネルンスト係数)の複雑で特徴的な振舞いが、反強磁+超伝導揺らぎの理論に基づき統一的に理解できることが明らかになり、特に擬ギャップ領域において強力な超伝導揺らぎが発達していることが結論された。 2.強相関電子系における熱・電気的輸送係数の一般理論:強相関電子系における熱流と電流が絡んだ輸送現象の研究の為には、電子相関に関する詳細な考察が必要である。Littingerの線型応答理論('64)によると熱起電力は電流と熱流の相関関数より与えられるが、熱流のオペレーターは相互作用項に由来する2体項を含むため多体電子系では一般に複雑であり、バーテックス補正の理論的解析は過去不十分であった。我々は局所的エネルギー保存則から導かれるワード恒等式に着目して,熱起電力やネルンスト係数に対する厳密かつ簡便な一般的表式を導出した。これらの表式に含まれるバーテックス補正(前方散乱項)Γ^Iを,ワード恒等式Γ^I=δΣ/δGをみたすよう計算することで,各種輸送係数に対する保存則を満たす近似(Baym-Kadanoffのconserving approximation)がはじめて可能となった。
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