本研究では、現実のd及びf電子系化合物に広く見出されている、軌道の秩序化、磁性との共存、そして強い揺らぎなどの現象の微視的起源について、理論論的な立場から精密な知見を得ることを目的として計画された。本年度は、主に典型物質であるCeB_6の四重極秩序相の揺らぎと動力学についての解析を行った。 この系については、ここ数年の集中的な研究によっで平均場描像が確立し、隠れた秩序変数としての八重極モーメントの重要性が明らかになっている。一方で、物理量の温度や磁場変化は、転移点近傍での大きな揺らぎの存在を示しており、定量的にみると平均場解からのずれは小さくない。こうした多自由度の競合による揺らぎの効果を詳しく調べるため、相転移のランダウ理論の立場で、自由エネルギーの平均場解からのd^<-1>補正を計算した。 磁場に依存した大きな多重極揺らぎの影響を適切に採り入れることで、実験との一致が著しく改善されると同時に、幾つかの物理量にみられる異常な振舞が自然に説明されることが解った。弱磁場領域での実験との定量的比較にもとずいて、高磁場領域の相図の形状と磁場異方性について詳しく調べた。 また、CeB_6の中性子散乱実験を解釈するため、多重極モデルに基づく励起エネルギーと中性子散乱断面積の計算を行った。大きな八重極相互作用により高エネルギー領域に孤立したモードが現れ、低エネルギーのモードとは二重極の分極が異なることが示された。散乱スペクトルについて実験との定量的一致が得られた。
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