研究概要 |
本研究では、成長線を利用した二枚貝類の現生・化石集団の生活史の解析を行い、その地理的変異と時間的変化に関する考察を行なってきた。本年度は、昨年度に引き続き仙台市郊外の蒲生干潟を調査地域として、潮間帯に生息する現生二枚貝類(イソシジミ、アサリ)を対象として、2年間における殻成長と生殖周期の周年変化の関係を検討することで、成長と繁殖のエネルギー分配に関する詳細なデータを得ることが出来た。 一方、日本と韓国各地の干潟において、二枚貝類の集団標本を採集し、生活史形質の種内変異に関する調査を行なった。本研究では、特にクチベニガイ科二枚貝のヒラタヌマコダキガイに焦点を絞り、韓国(原産地)と有明海(移入地)における生活史の種内変異を調べている。本種は近年、黄海沿岸から有明海やサンフランシスコ湾などに人為的にもたらされており、競争種が生息しない水域(例えば潮止め後の干拓調整池など)で急激に1種だけで増殖する生態的特徴を示している(佐藤,2001)。本年度は、特に潮止め後の諌早湾干拓地において、調整池における採泥調査の過去5年間のデータをまとめることにより、水門締切後の環境変動に伴うヒラタヌマコダキガイの生活史の時間的変化を明らかにした(Sato and Azuma,2002)。さらに、本種の原産地である韓国セマングム地区における大規模干拓事業に伴う本種の分布・生活史の時間的変化を明らかにし、両海域での比較を行なうことで、これらの現象の普遍的事実を抽出した(佐藤,2002)。2年間にわたる本研究の結果により、特にヒラタヌマコダキガイについて、急激な環境変動に伴う二枚貝類の生活史の変化の普遍性が明らかとなり、それを化石に応用することで過去にも大規模干拓事業と類似する環境変動が何度も生じていたことを証明できた(佐藤,2002)。
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