研究概要 |
SIMSによるLi同位体分析用の標準試料を作成するには,鉱物から均質な部分を取り出して分析を行なわなければならない場合があり,その際,従来より少ないリチウム量に対しても従来並みの高精度で同位体分析を行なう必要がある.そこで,研究代表者自身が開発した表面電離型質量TIMS同位体分析法を一部改良し,100ngのリチウムに対して,0.5‰(1σ)の精度で分析できるようにした.この成果については,現在投稿中である.また精度の高いリチウムの定量分析を効率よく行なうために,Flow injectionを装備したICP-MSを使った同位体希釈法によるリチウムの定量分析法も確立した.この方法では10mgの試料に対して2%(1σ)の分析精度でリチウムを定量することが可能である.この成果については現在論文を執筆中である. これらの分析方法を活用して,リサイクル物質の一つと考えられている海洋堆積物として,四国四万十帯に産する頁岩を追加分析し,MORBよりδ^7Li値が中央海嶺玄武岩類(MORB)より低い値を持つ海洋堆積物が存在することを再確認した.さらに,四国汗見川沿いに産する三波川帯の変堆積岩のリチウム同位体分析を行ない,低変成度から高変成度まで,全岩のリチウム同位体組成が系統的に変化することなく、ほぼ一定の同位体組成を持つことが明らかになった.また,変塩基性岩のリチウム同位体組成は変堆積岩との接触面からの距離に対して系統的な変化が観察され,相対的にリチウム含量が高い変堆積岩由来の流体の影響を被っていることが明らかになった.さらに,SIMSの標準試料として電気石のリチウム同位体組成を決定し,変堆積岩中に含まれる電気石のリチウム同位体分析により,変成作用中におけるリチウムの同位体分別を明らかにし,リチウム同位体の地球化学的トレーサーとして能力の評価を行なうことと,リチウム同位体を利用した地殻-マントル間の物質循環の解明に関する研究は現在も継続して行なっている.
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