研究概要 |
本研究は,ガラス転移以下まで温度を下げても凍結しない濃度の高分子水溶液について広い温度および周波数域の誘電分光測定を行い,高分子水溶液で観測される緩和の一般論を確立することを目的とする。 高分子水溶液の研究の中で,水を水素結合性液体の一つと捉え,様々な構造のアルコールの高分子溶液を用い,PVP水溶液およびPVPアルコール溶液でPVPの濃度を変化させて誘電分光測定を行い,高分子溶液中の水とアルコールの緩和時間を調べた。その結果,緩和時間の高分子濃度に対する変化をシフトファクターとし,シフトファクターと水およびアルコールの構造を比較したところ,水素結合可能なOH基密度が高い液体ほど緩和時間のシフトファクターが大きくなることがわかった。つまり水は様々な構造のアルコールと比べ,純水では緩和時間は最も小さいが,OH基密度が高いためにシフトファクターが大きい,つまり高分子の影響によりもっとも動的構造の変化が大きい物質である事がわかった。 低分子量分子から高分子までの様々な分子量の物質の水溶液でも,単一物質からなるガラス形成物質と同様,高温側の緩和が,低温でα過程とβ過程の2つの緩和に分離することが観測されたが,水と混合する物質の分子量や観測した温度域により,これらの緩和の緩和時間に分子量依存性が見られる領域と見られない領域に区別できることがわかった。緩和時間に分子量依存性が見られる領域では水分子を主体とした協調緩和領域(CRR)の特性長が溶質分子より大きい場合であり,緩和時間に分子量依存性が見られない領域ではこのCRRの特性長が溶質分子よりも小さい場合であると仮定すると,実験結果を良く解釈することができた。
|