研究概要 |
カルバゾールは溶液中で紫外光を照射すると種々の反応を起こし、反応の種類は溶媒によって劇的に変化することが知られている。即ち、極性溶媒中ではイオン化が主たる反応経路であるが、無極性溶媒中では水素原子解離反応のみが起き、イオン化は全く観測されない。溶液中で観測されるカルバゾールの特異な光化学反応を理解するには、カルバゾール分子に溶媒がどのように配向し、作用するのかを明らかにすることが必要不可欠であると考えられる。申請者は、溶液の部分系であるカルバゾール溶媒和クラスターに着目し、紫外-赤外二重共鳴分光法を適用した振動構造解析からのアプローチによるカルバゾールの光化学反応機構の解明を試みた。申請者は既に2001年度に、カルバゾール・(水)_nクラスター(n=0-3)の基底状態S_0において紫外-赤外二重共鳴分光による赤外スペクトル測定と理論計算との比較からクラスター内の分子配向の詳細な構造決定を行い、学術論文(J. Phys. Chem. A, 105(38), 8651-8657 (2001))として発表した。2002年度では、光化学反応において直接的な役割を担うと考えられる電子励起分子の振動構造に取り組んだ。カルバゾール・(水)_1クラスターのS_1状態およびカチオン状態の赤外吸収スペクトルの測定に成功し、その結果から、NH伸縮振動がS_0に対してS_1、カチオン共に低波数シフトおよびブロードニングすることが明らかとなった。低波数シフトとブロードニングはS_1よりもカチオンにおいて著しく顕著であり、カチオンが水素原子解離反応に関わっている可能性も考えられるが、詳細については今尚検討中である。また、実験結果の一部については、学術論文(Bull. Chem. Soc. Jpn., 76, 509-514 (2003))において報告した。
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