研究概要 |
本研究では、申請者らがこれまで種々の高周期典型元素多重結合の安定化に応用してきた立体保護基である2,4,6-トリス【ビス(トリメチルシリル)メチル】フェニル(Tbt)基を用いることにより、未だ報告例の無いケイ素-ホウ素二重結合化合物(シラボレン)を合成しその性質を解明することを目的としている。平成13年度の本研究において申請者らは、シラボレンの前駆体となりうる化合物である1,2-ジハロシリルボラン-イソシアニド錯体1[Tbt(Mes)(X)SiBX(R)CNAr]の発生を、アルゴン下でのNMRにより確認することに成功した。しかし、1は空気中で不安定であり1の単離には至らなかった。本年度の研究においては、まずホウ素上にアミノ基を導入して立体的効果と電子的効果を併せ用いることにより、目的のシラボレンを安定な化合物として合成・単離することを検討した。しかしながら、その前駆体であるホウ素上にアミノ基を導入したシリルボラン2[Tbt(Mes)(Cl)SiB(Cl)TMP : TMP=2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジル】もまた空気中で速やかに分解し、その単離には至らなかった。一方、申請者らはすでにシリルピナコールボラン3[Tbt(Mes)(Cl)SiBC_6H_<12>O_2]を安定な結晶として単離することに成功している。3をNa/K合金と反応させたところ、ホウ素置換シリルアニオン4[Tbt(Mes)(BC_6H_<12>O_2)Si^-]を経由したと考えられる化合物を得た。4に関しては、ケイ素-ホウ素二重結合を有するボリルアニオンとしての共鳴構造の寄与も可能となる化学種であるため、その構造・反応性に興味が持たれる。また、4は有機合成上重要な中間体であるホウ素置換カルボアニオンのケイ素類縁体であり、その応用にも興味が持たれる。今後、4の単離・構造および反応性の解明についてさらに検討を行なう予定である。
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