研究概要 |
(R)-F_<13>BINAPを不斉配位子とした反応では、(R)-F_<13>BINAPが溶媒中に残存するもしくは反応中に混入する酸素によって酸化され反応が停止する。このことはパーフルオロアルキル基が酸素と高い親和性を有していることに基因する。したがって、fluorousなホスフィン配位子においては、その分子量に占めるフッ素含量が高くなると配位子が酸化を受けやすくなり、厳密な反応条件が必要なばかりでなく、その再使用にも制限が生じることになる。比較的フッ素含量が低い(Light fluorousな)ホスフィン系配位子を使用すれば酸素による配位子の酸化は起こりにくくなると考えられる。そのような考えのもと、Light fluorousなキラル配位子が幾つかのグループによって合成されている。しかしながら、パーフルオルアルキル鎖をアリール基へ導入する手法には専ら遷移金属錯体を用いたHeck反応やSuzuki反応などが利用されており、収率や効率の点で必ずしも簡便な方法とは言えない。そこで、新たにアリール基のパーフルオロアルキル化についてモデル化合物を用いて検討を行った。基本となる炭素-炭素結合形成反応にwittig反応を利用してアリール環とパーフルオロアルキル鎖を連結することにした。まず、Wittig試薬を既報にしたがって炭素鎖の異なるヨウ化パーフルオロアルキル(C_nF_<2n+1>CH_2CH_2I : n=4,6,8,10)とトリフェニルホスフィンから調製した。このとき、両者を無溶媒で加熱するだけで、高収率で対応するホスホニウム塩(C_nF_<2n+1>CH_2CH_2PPh_3^+I^-)が得られることわかった。得られたホスホニウム塩とモデル化合物として4-ホルミル安息香酸メチルを含水ジオキサン中、炭酸ナトリウムの存在下、90℃で反応させたところ、収率よく反応は進行し、アルケン((4-C_nF_<2n+1>CH_2CH=CH-PhCO_2Me)を与えたが、分離困難な副生成物が混入した。これは生成物から塩基として加えた炭酸ナトリウムによってHFが脱離して生成したジエンであると考えられた。そこで、10%程度のジメチルアセトアミドを含むジオキサン中で同様に反応を行ったところ、固-液の不均一でも反応は進行し、高い収率で対応するアルケンが得られた。ついで、オレフィン部分を10%Pd/C存在下、接触水素添加を行い、目的とするパーフルオロアルキル安息香酸メチル誘導体(4-C_nF_<2n+1>CH_2CH_2CH_2-PhCO_2Me)を得ることができた。様々なパーフルオロ鎖長を有するLight fluorousなキラル配位子を簡便かつマルチグラムスケールで合成できる手法を確立することができた。
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