研究概要 |
希土類f電子系と有機π電子系を同一分子内に持つ化合物の分光学的、磁気的性質の研究を行うにあたって、f電子系のみの系における電子多重項の副準位分裂構造についての情報が不可欠である。これまでに知られている分光学的な方法による副準位分裂構造の決定法はすべて固体中の発光スペクトルが観測でき、かつそれらの線幅が非常に狭く、発光の始状態と終状態が特定できる場合に限られていた。本研究では、これまで扱うことができなかった系で用いることができる、新しいf電子系基底多重項分裂の解析法を開発した。本方法は磁化率の温度変化とNMR常磁性シフトの測定値を再現する配位子場パラメーターを多次元最適化アルゴリズムにより決定する。このとき、各配位子場パラメーターが原子番号の一次関数であるという仮定を用いる。この数学的制限により、十分な唯一性をもった解を得ることができる。本方法を用いて、(1)希土類単核フタロシアニン二層型錯体(Pc_2Ln^-)、(2)希土類ヘテロ二核フタロシアニン三層型錯体(PcYPcLnPc^*,PcLnPcYPc^*)、(3)希土類ホモ二核フタロシアニン三層型錯体(PcLnPcLnPc^*)、ただしLn=Tb, Dy, Ho, Er, Tm, Yb、の各配位子場項と、副準位分裂構造を決定した。特筆すべきこととして、はじめて希土類二核錯体中のf-f相互作用を理論的に解明することができた。本研究によって不対f電子系によって作られる分子内磁場を位置の関数として決定することができるようになり、f-π相互作用の理論的解明を行うための確固とした基盤を作ることができた。これらの成果について、平成14年錯体化学討論会、分子構造討論会、平成15年日本化学会春季年会において口頭発表し、J. Am. Chem. Soc.誌、J. Phys. Chem.誌、Inorg. Chem.誌にそれぞれ論文を発表した。
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