研究概要 |
UV光照射によりL_6Mn_4O_4立方体錯体(1)から[L_5Mn_4O_2]^+"Butterfly"型錯体への選択的な分子構造変換により酸素を発生する結果に着目して、この分子構造変換を利用した水の酸化触媒素子の開発、さらにこの素子を基本とした高分子触媒膜を創製する研究を実施した。 錯体1はジクロロメタンにしか溶解せず、その飽和濃度も0.4mMの低いのが実験の大きな制約となっていた。また多くの高分子との親和性も課題となっていた。錯体1の溶解度、ならびに高分子との親和性を改善するために、ジフェニルスルホン酸のフェニル基にメチル基を導入した誘導体1aを合成した。メチル基を導入することにより、ジクロロメタンへの溶解度は約100倍増大し、アセトニトリルやジメチルホルムアミドなどの他の有機溶媒にも可能となった。1aとpolystyreneまたはpoly(methyl methacrylate)などの高分子との混合溶液から溶媒除去によ1a/高分子ハイブリッド膜を作成することに成功した。 L_6Mn_4O_4錯体の比較化合物として[Mn_2^<III,IV>(μ-O)_2(terpy)_2(H_2O)_2]^<3+>(terpy=2,2':6',2"-terpyridine)錯体(2)を合成した。2の水の酸化触媒活性を明らかにするために、水溶液中で2とCe(IV)酸化剤との反応を調べたが、2は過マンガン酸イオンへ分解するのみで、全く酸素を発生しなかった。しかし、2をカオリン粘土に吸着させた場合には酸素が発生し、2が触媒として働くことを見出した。これまでのマンガンオキソ錯体による水の酸化反応に関する研究では、均一水溶液系で反応が試行されており、水からの酸素発生を実現するに至らなかった。本研究の結果は不均一な反応場を提供することにより、二核マンガン錯体が触媒として働くことを示した最初の例であり、錯体の均一溶液中での反応のみならず、不均一反応場での研究の重要性を示唆している。
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