研究概要 |
人工酵素構築の新しい方法論として、蛋白質キャビティーに合成金属錯体を挿入し、蛋白質反応場を利用して反応制御をする試みは、当初の計画を大幅に上回る成果を生み出すことが出来たので、ここにまとめる。 1.金属錯体挿入法の確立 初期の段階における、反応条件や挿入金属錯体の決定は多数のサンプルスクリーニングが必要となる。本研究では、ESI-TOF MSによる迅速スクリーニング法を確立し、数百にのぼるサンプルの解析から、安定な複合体の決定に成功した(投稿準備中)。 2.人工金属酵素の構造決定 反応制御をおこなう上で、構造決定は重要である。本研究では安定な複合体を形成するM(3,3'-Me_2-salphen)・apo-A71G Mb (M=Cr^<III>, Mn^<III>, and Fe^<III>)の結晶構造解析に成功し、当初の分子設計通りに錯体がミオグロビンキャビティーに挿入され、特異的な非共有結合相互作用によって固定化されていることを明らかとした(投稿準備中)。 3.反応制御方法の確立 結晶構造解析を元に、蛋白質反応場の分子設計を支援計算ソフトInsightII/Discover3によっておこない、蛋白質アミノ酸特異的部位置換法と挿入錯体の配位子をデザインすることによって、酵素反応の向上を目指した。具体的にはCr(3,3'-Me_2-salphen)・apo-A71G Mbの結晶構造をもとに、Cr(5,5'-t-Bu_2-salphen)・apo-H64D/A71G Mbを単離し、チオアニソールの不斉酸化反応に成功した。本研究は、合成錯体を非共有結合的に蛋白質に結合し、合理的な分子設計により反応制御をおこなった世界で最初の例である(Angew. Chem. Int. Ed., 2003, 42, 1005)。 4.今後の展望 本研究で得られた結果は、様々な金属化合物と蛋白質の複合化に利用できる。実際、生体分子の複合体システムに金属化合物を組み込んだり、蛋白質の内部で金属錯体を合成することによって、これまでにない、化学反応システムの構築を進行中である。
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