研究概要 |
第一級ビニルカチオンの前駆体として最も有望なビニルヨードニウム塩を用いて様々な条件で反応を行った。キラリティプローブ、同位体標識などを利用して、それら条件下で発生する活性種の特定を行った。その結果、シクロヘキサ-1-エニルヨードニウム塩を酢酸塩などの弱い塩基と作用させると、ほぼ定量的にシクロヘキシン中間体が生成していることを見出した。発生したシクロヘキシンは速やかに酢酸塩の求核付加を受け、シクロヘキサ-1-エニルアセタートとなる。4-メチルシクロヘキシンを経る反応では二種類の位置異性体生成物がほぼ当量得られるが、tertブチル基に置き換えると求核付加の位置選択性は75/25程度まで大きくなる。分子軌道計算を行ったところ、LUMOが局在している位置での求核付加の選択性が高くなっており、この二者間に相関関係が見られた。またLUMOの分布は環ひずみによって大きく影響されていることも見出し、これまで未知であったシクロアルキンへの求核付加反応性およびその選択性発現因子について明らかにすることができた。 また、より求核性の高いシアン化物塩を用いてシクロヘキサ-1-エニルヨードニウム塩との反応を行うと、Michael付加-ヨードニオ基の脱離-カルベンの1,2-ヒドリド移動の経路によりアリル置換生成物が得られることを見出した。このMichael付加を含む反応機構はアルケニルヨードニウム塩の置換反応において前例がなく、イリド・カルベン反応中間体およびそれらを利用する有機反応の発展に寄与できる。
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