研究概要 |
<背景と目的> 葉の発生における細胞伸長制御機構を解明することは、植物の形、多様化の仕組みの理解に必須である。これまでに私は、アラビドプシスの葉細胞の極性伸長を司るANならびにROT3両遺伝子のクローニングに成功した。興味深いことにこれら遺伝子は、共に植物界に特異的な遺伝子族を成すことが判明した。そのうち葉の長さ方向への細胞伸長は、新規のステロイドホルモンの作用によって制御されるという新しいモデルを提示する等の成果を上げてきた。これらの成果を受け、多細胞生物の形を左右する新たな細胞極性伸長制御機構、すなわち新規ステロイドホルモンの同定を通じた葉の極性伸長に関わる新規の遺伝的制御機構の解明を最大の目標とする。 <検討結果> 1)ROT3遺伝子の発現解析および新規ステロイドホルモンの探索。 葉の形態形成過程におけるブラシノライドの影響を解析するため、ブラシノライドの中間体によるROT3発現パターンの変化を調べた。その結果、最終産物であるブラシノライドによりROT3発現が抑制されることからROT3遺伝子のブラシノライド合成に関わることが強く示唆された。さらに、葉の形態形成過程における光の影響の解析のため、red, far-red,およびblueの光処理によるROT3遺伝子の発現パターンの変化を解析した結果、ROT3遺伝子は葉柄と葉身それぞれに違う発現パターンを示すことが明らかになった。 2)ROT3類似遺伝子(群)の単離とそれらの機能解析。 いくつかのパーシャルクローンから、全長の遺伝子の単離と塩基配列の決定およびその解析を行ない、ROT3遺伝子と機能的に類似な相同遺伝子の単離に成功した。 3)分子遺伝学的手法を用いた遺伝子の機能解析。 35Sプロモーターを用い、得られたROT3類似遺伝子(群)をrot3変異体および野生株に導入したトランスジェニック植物を作成し、その具体的な機能解析を行なっている。 <考察> 本研究では様々な研究手法を組み合わせて解析を進める、葉の形態形成を司る遺伝子群のトータルな働きに関し、全くオリジナルの成果を生むことができた。特に本研究では、新規ホルモンによる葉形態形成の支配という観点、また未知である、葉形態形成における光によるホルモン制御という観点を加えることで、新たな遺伝的制御機構を解明できるものと考えている。
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