研究概要 |
雄の派手な形質を指標とした雌の配偶者選択において,選ばれた雄からの子への遺伝的貢献という配偶者選択の間接的利益を明らかにするため,沖縄産野生化グッピーを用いて以下のような実験を行い,次のような結果を得た。 (1)グッピーにおける雌選択の指標である雄のオレンジ色の体色が餌の藻類に含まれるカロチノイド依存形質であり,藻類摂餌によって雄の体色だけでなく,成長や雌の繁殖効率が向上することを藻類添加グループとコントロールグループを比較することで明らかにした。しかし,βカロチン添加グループとコントロールグループの比較により,雄の体色はβカロチンで鮮やかになるものの,成長や雌の繁殖効率は向上しなかったことから,藻類に含まれるβカロチン以外のカロチノイド,あるいは食物繊維などの他の物質が,グッピーの成長や繁殖に関与していることが示唆された。これらの実験の結果は,"Algal-diet enhances sexual ornament, growth and reproduction in the guppy (Poecilia reticulata)"という原稿にまとめ,現在,Behavioral Ecology and Sociobiology誌に投稿中である。 (2)グッピーの雄の藻類採餌能力が子へ遺伝するかを明らかにするため,障壁を乗り越えて藻類を探索・採餌する能力を調べる迷路実験を行った結果,雄親の藻類採餌能力は息子および娘に有意に遺伝することが判明した。したがって,(1)の結果とあわせて,雌のグッピーはオレンジ色の体色の鮮やかな,藻類採餌能力の高い雄を配偶相手として選ぶことで,子の藻類採餌能力を高め,息子の体色の鮮やかさだけでなく,子の成長や娘の繁殖効率を高めるという間接的利益を得ていることが明らかになった。現在,(2)の結果をまとめて,投稿準備中である。 (3)グッピーにおいては雄は鮮やかな体色だけでなく,尾鰭も長いという性的二形を示す。この尾鰭の長さが雌の配偶者選択に関与しているか,尾鰭や全長の異なる雄を雌に選ばせる二者択一実験を行ったところ,雌は雄の尾鰭の長さ自体を選択指標にしているのではなく,尾鰭の長さを含めた雄の全長を指標にしていることが明らかになった。雄は体そのものを大きくするより,尾鰭だけを伸ばした方がコストが少ないため,雄が尾鰭を伸ばすのは雌に選ばれるための戦略であると考えられる。しかし,雌は尾鰭の長い雄を選ぶことで,子,とくに尾鰭が伸長しない娘の体サイズが大きくなるわけではないため,雄の尾鰭の長さはオレンジ色の体色とは異なり,雌を騙す雄の不正直な形質であることが示唆された。この結果は,2002年発行のBehaviour誌に掲載された。
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