研究概要 |
日本の干潟に普遍的に生息するコメツキガニは,シギ・チドリ類のような渡り鳥を終宿主とする二生類吸虫の第二中間宿主である.本研究では、感染した吸虫がカニの対捕食者行動や摂食行動に影響を与えることにより,終宿主への移動を促進しているかどうかについて,行動観察と野外実験により調査した.結論として吸虫によるカニの行動への影響は検出されなかった. まず,ビデオカメラを用いて、接近する捕食者に対するカニの反応速度を調べる実験を行った.カニの逃避行動の早さは相対感染数の変異では説明されなかった.体サイズも逃避行動の早さに影響してなかった.ビデオの視界内においては,捕食者が通過するラインに近いか遠いかも,逃避反応に影響してなかった.吸虫はカニの対捕食者行動に影響を与えてなかった.ネガティブな結果だが専門誌への発表の価値はある. 次に,相対感染数の多い個体ほど盛んに摂食するかどうかに着目し,カニの摂食活動性の高さがどんな要因によって決まっているかを,行動観察と環境測定等により調査した.その結果,摂食活動性の高さは,カニの体サイズと地表温度で決まっていた.即ち,小さい個体ほど,また温度が高いほど盛んに摂食した.吸虫感染による摂食行動への影響はなかった.今回,摂食行動に関して得られた情報は専門誌に発表する価値がある. 吸虫の第一中間宿主がホソウミニナかどうか確かめるために実験を行ったが,失敗に終わった.成功させるためには,比較的長期間にわたってホソウミニナとコメツキガニを飼育する必要があると考えられた. 成果発表のため、8月にソウルで開催された国際生態学会において昨年度までの成果を発表した.多くの研究者と有意義な討論と情報交換を行うことができた.
|