本研究の目的は、クロロフィルb生合成による光化学系アンテナサイズの調節機構を明らかにすることである。高等植物のクロロフィルb生合成はクロロフィリドaオキシゲナーゼ(CAO)によって触媒されることが明らかになっている。 申請者は、CAOを過剰発現する形質転換植物(シロイヌナズナ、Arabidopsis thaliana)を作出し(YK株と名付けた)、これを材料として研究をすすめてきた。また、比較対象として、野生型シロイヌナズナおよびCAO遺伝子欠損変異株(ch1-1)を用いた。野生型株は、強い光条件下(1.2 mE m-2 s-1)で生育させると、CAO遺伝子の発現の減少とアンテナサイズの減少が見られるが、YK株ではCAO遺伝子を強制的に過剰発現しており、アンテナサイズの減少は見られなかった。この結果から、CAO遺伝子の発現がアンテナサイズを調節していることが明らかとなった。電子顕微鏡でYK株のチラコイド膜のスタッキングの度合いを調べたところ、スタッキングの程度は野生株と変わらないことが明らかとなった。また、ch1-1においても明らかなスタッキングが見られた。この結果は、チラコイド膜のスタッキングにはCAOの発現、およびLHCタンパク質(LHCタンパク質の蓄積はCAOによって制御されている)以外の要因が関与していることを示している。また、HPLCによるカロチノイド含量の測定によって、YX株、ch1-1、野生株の間でカロチノイドの量には大きな違いがないことが明らかになった。 これらの結果から、高等植物の強光への適応過程において、CAOがアンテナサイズすなわちLHCタンパク質の調節に重要な役割を果たしていること、チラコイド膜のスタッキングにはさらに別のファクターが関与していることが明らかとなった。また、カロチノイドの合成にはCAOは影響を及ぼさないことが明らかになった。
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