光化学系II酸素発生部位の詳細な解析のため、緑藻C. reinhardtiiを用い、D2タンパク質のTyr-162(いわゆるTyrD)の欠失変異株を作製した。まずPELDOR(Pulsed Electron DOuble Resonance)法により構造を解析した。TyrDを欠失したことにより単独のラジカルとして測定が可能となったTyrZ(活性チロシン残基である)と第一電子受容キノンであるQAとの距離は、34.5±1Åと決定した。 次に、P680+の再還元キネティクスの詳細な解析を、ヒスチジンタグ付与野生株とヒスチジンタグ付与TyrD欠失変異株より精製した光化学系II粒子を用いて行い、以下の知見を得た。(1)ヒスチジンタグ付与野生株とホウレンソウとでは、本質的に同等のキネティクスが得られた。(2)TyrD欠失変異株のマイクロ秒領域のキネティクスは有意の差が見られた。このマイクロ秒領域の異常なキネティクスと正常であった四周期振動より、TyrD欠失がS状態の遷移に影響を与えたわけではなく、プロトン移動と共役した電子伝達に影響を与えたものと結論した。酸素発生部位は電子伝達とプロトン移動が調和的に共役しているとされるが、TyrDがこれに重要な役割を果たしていることがわかり、これまで不明であったTyrDの機能が明らかとなった。
|