研究概要 |
本研究は,形態形質だけではコンセンサスが得られず,多くの分類学的な問題点をもつ蘚類ハイゴケ目について,系統学的な知見を活用して分類形質の再評価を行い,分類体系の再検討を行うことを目的とする.本研究ではハイゴケ目の中でもとくに,分類学的取り扱いについて議論の多くなされてきたナガハシゴケ科とハイゴケ科の2科を中心に検討を進めた.両科を対象とすることで,ハイゴケ目内の分類学的な問題点を解決する糸口が得られると考えられるためである.ナガハシゴケ科とハイゴケ科の境界を議論する際問題となっていたカガミゴケ属,Heterophyllium属,Trismegistia属については,すでに論文として発表済みである(Tsubota et al.2001a, Tsubota et al.2001b, Akiyama & Tsubota 2001).これらの研究によりカガミゴケ属との系統関係が示唆されたWijkia属とその周辺分類群について系統学的な知見を得て,Wijkia属として扱われてきた日本産の種はカガミゴケ属に含めて扱うべきであるという結論を得た.また,Wijkia属のタイプ種であるW.extenuataについては,Heterophyllium属やTrismegistia属と近い系統関係にあり,Wijkioideae亜科の再検討が必要であることが明らかになった.これらの知見については,国際学会において発表を行い,現在論文として公表すべく投稿の準備を進めている.さらに現在,ナガハシゴケ科として扱われ,いくつかの祖先的な特徴を持つClastobryoideae亜科内のいくつかの属についても研究を進めている.ハイゴケ科を中心としたハイゴケ目全体の系統関係についてrbcL遺伝子の塩基配列を用いた系統解析を行い,イタチゴケ目を含む広義ハイゴケ目の単系統性を示し,イタチゴケ目の退化的な〓歯がいくつかの枝で独立して生じたものであることが示唆された.この結果については,Tsubota et al.(2002)において発表を行った.また,研究の過程で,微量な試料からDNAを抽出する方法を考案したので坪田ほか(2002)において発表を行った.さらに,海外調査の過程で未記載種を確認したので記載論文を投稿し,現在印刷中である.
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