研究概要 |
化石から類人猿の運動を推定することは,ヒト化における運動様式の進化とその要因を解明する上で極めて重要である。従来,現生霊長類の骨形状・骨格構造と化石形態の相関から,このような運動推定は行われてきた。しかし,形態学的手法のみでは,その大まかな移動様式を推定できても,そのダイナミックな運動を再現し,視覚化することは困難であった。そのため本研究では,霊長類の形態・構造的制約から,霊長類の四足歩行運動を再現するシミュレーションモデルの構築を行った。具体的には,4足性の霊長類の例としてニホンザルの3次元筋骨格モデルを構築し,4足歩行を生成しうる新しい神経回路モデルの実装を試みた。 筋骨格系は16節3次元剛体リンクモデルとしてモデル化し,運動方程式を導出した。各節の慣性パラメータは各節を楕円錐台と近似して推定して運動方程式に入力し,ニホンザルの身体運動を計算,可視化した。一方神経系については,歩行の基本的リズムを生成する神経発振回路に,姿勢を安定に保つよう四肢を協調的に動かす姿勢制御神経系を統合した,新しい神経回路モデルを提案し,それを身体力学系に実装した。これは,従来提案されている動作生成手法とは異なり,身体の構造的制約に則った運動を自律的に生成しうる。そのため,例えば体節長や関節可動域などを変化させたときの運動変化の推定が可能となる。 本モデルを用いて,自律的な運動生成を試みた結果,外乱に対して適応的に姿勢を保持した歩行を生成することができた。生成された歩行は,現在のところニホンザルの実歩行計測データと一致するものではないが,本モデルは従来手法にない優れた適応性と,視覚制御との統合や様々な移動様式への対応など高い拡張性を有している。すなわち本提案のモデルは,人類学的視点からの運動復元に留まらず,霊長類の歩行メカニズムの進化過程の解明に向けた研究への応用も可能であり,今後の多様な発展性を示唆した。
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