研究概要 |
同軸ケーブルの先端に押し当てた試料の反射率の周波数依存性を複素量(即ち,振幅と位相)として測定し、試料の複素電気伝導度(又は複素抵抗率)の周波数依存性を直接求める広帯域周波数掃引測定装置を完成させた.測定周波数領域は45MHz〜50GHz,測定温度領域は室温〜約10Kである。試料装着部には微小バネを用いた専用プローブを開発し,低温測定では同軸ケーブルの温度変化を較正するため,テフロン,金薄膜,ニクロム薄膜などを標準試料として用いた. 金属絶縁体転移(MI転移)近傍の電荷ダイナミクスの変化を調べるため,La_<2-x>Sr_xCuO_4(x=0.04〜0.08)薄膜に対する複素抵抗率の周波数依存性を測定し,少なくとも5GHz以下の周波数領域で組成や温度による複素抵抗率の周波数依存性の変化を議論できるデータを得た.新たな発見として,超伝導を示す組成(x=0.07,0.08)の超伝導転移温度近傍で複素抵抗率の実部ρ_1,虚部ρ_2に特異な周波数依存性を観測した.金属の交流伝導度を記述するDrudeモデルでは,ρ_1は直流抵抗率と一致し周波数依存性を示さないため,この振舞いは超伝導揺らぎと関連する可能性がある.一方,超伝導が消失する組成(x=0.04,0.05)でも,絶縁体的に振舞う低温領域でρ_1,ρ_2に顕著な周波数依存性が観測された.これはMI転移に伴う電荷ダイナミクスの変化に起因する可能性と基板(誘電体)の影響に起因する可能性が考えられ,現在,異種基板を用いた薄膜試料や母物質La_2CuO_4単結晶の測定を通じて原因を特定中である. MI転移近傍の複素伝導度の変化に関連して,粉末状C_<60>化合物の電気伝導度を空洞共振器法により初めて測定し,超伝導が消失するNH_3K_3C_<60>では,軌道秩序や反強磁性秩序の形成はMI転移を伴わず,結晶の立方対称性の低下に起因したモット転移が超伝導消失の原因であることを明らかにした.
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