研究概要 |
マイクロマシンのような,数百μメートル以下の微小な物体に対して作用する力を考えると,長さの3乗に比例する重力,慣性力や2乗に比例する静電気力などよりも,長さの1乗に比例する界面張力が支配的である.界面張力をマイクロアクチュエータの駆動力として機械的に利用するために,何かしらの方法で界面張力の平衡状態を変化させることが必要である.シリコン基板に水滴をのせると,シリコン表面の疎水性と水滴の界面張力により水滴は球形状になる.この状態で電磁気や光の刺激により,界面で電気化学的な現象を引き起こすことで表面張力の平衡状態を変化させられると予想した.これまでに半球状の水滴とシリコン基板の間に電圧を印加することで,水滴が基板表面で広がり平たんになる現象を発見し,ぬれ変化の観察に用いる照明光や屋外からの日光が,ぬれの広がりや電圧-電流関係に影響を与えることを実験から確認した. シリコン基板上に滴下した直径1mmの水滴(純水)に紫外線光源,ハロゲン光源から可視光(スポット径0.5〜10mm)を照射して実験を行い,ぬれ変化への光の影響を調べた.基板全体への照射では,照射しない場合と比較し,1.5〜6分の1程度の電圧でぬれ変化を生じた.これは,光電効果により基板表面のキャリアー密度が大きくなり基板抵抗値が小さくなることと,光吸収により照射部分での電子電位が高くなるために液体分子の基板への吸着が助長されるためと考えられる.次に350nmの紫外光照射の場合について,3極法により液電位に対して基板の電位を±3Vの範囲で走査する実験を行なった.その結果,基板電位を正にしてぬれが広がるときのピーク電流は,光の照射に関係なく6μA程度と同じであることを明らかにした.このことから,ぬれ変化に伴う電流は界面での分極,または絶縁性膜の形成による電流と考えられる.紫外光を照射しない場合には,ぬれの広がりは1V程度の電位で生じ,その後電位の増大に従い電流が大きくなる,しかし,紫外光を照射した場合には,ほぼぬれの広がりが始まる電位(0.3〜0.7V)でピーク電流となり,その後電位の増大に伴い電流は小さくなる.この電位-電流関係は紫外光照射に特徴的な傾向であり,今後理論的考察が必要とされる.また,繰り返しの電位走査から基板のぬれ変化は1順目の挿印に対して起こり,二順目以降の変化は小さいことを確認している.
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