研究概要 |
大形2サイクルディーゼル機関に用いられるクロスヘッドピン軸受は,軸受面に形成される油膜が極めて薄く焼損や破損を起こしやすい軸受である.近年は大形機関の高過給・高出力化が進み潤滑状態は一段と苛酷化する傾向にあり,負荷能力の向上が重要な課題となっている.クロスヘッドピン軸受には従来からホワイトメタルが用いられているが,潤滑条件が過酷になると疲労強度に格段に優れるアルミメタルの採用が必要となる.従来のアルミメタルには鉛・すず・銅合金オーバレイとニッケルボンド層が一般に採用されているが,ニッケルの潤滑性が極めて低いためオーバレイが摩耗してニッケル層が露出すると耐焼付き性が著しく低下するという問題が指摘されている.さらにオーバレイの主成分に有害な鉛が含まれるため,環境保護の観点から鉛を用いないオーバレイの開発も強く望まれているところである.そこで本研究では実際機関のクロスヘッドピン軸受と相似な変動荷重,揺動すべりの条件で負荷限界試験を実施でき,さらに電気抵抗法により油膜形成状態を測定できるようにした軸受試験機を用い,クロスヘッドピン軸受のなじみ性と耐焼付き性に及ぼすオーバレイの影響について検討した.その結果,オーバレイなしのアルミメタルはホワイトメタルと比較すると耐焼付き性に劣るが,アルミメタルに適正なオーバレイを付けるとなじみ性が改善されて耐焼付き性の大幅な向上が期待できること,そして従来の鉛・すず・銅合金オーバレイ付アルミメタルと比較して,すず・銅合金オーバレイとすずボンド層を適用したアルミメタルの耐焼付き性は極めて高くなることなどが明らかになった.さらに,すず・銅合金オーバレイの銅含有量を増大させて硬度を適度に高くすると耐焼付き性の向上に有効であるが,硬度を過大にするとなじみ性が改善されずに耐焼付き性は低下することがわかった.
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